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 脳化社会への警告

1/9のNews23の「筑紫録」というコーナーに養老孟司さんが出ていて、興味深い話をしていたので、思ったことを書き留めておく。

養老孟司さんといえば「バカの壁」だろう。私にとっても愛読書の1つだ。人間の脳は、キャパシティにも理解力にも個人差はあるが、誰の脳にも限界はあるのだ。何もかもを覚えられる人間は居ないのは当然だが、何もかもを理解できる人間も滅多に居ないのだ。特定の分野に限っても、一個人が理解し尽くせる確率は極めて低いということだ。このことを意識することは、ある種の人間にとっては非常に重要なことだと考えている。情報を覚え切れなければその所在を知っておけばいい、理解し切れなければ理解できる人と繋がりを持てばいい。大抵の場合はその通りだろう。しかし、ある種の人間にはそうでない場合があると思う。そんな時のための「バカの壁」である。

養老さんは、自然と接しながら感覚で感じ取る社会ではなく、頭の中で考え作られた社会で人々が生きる社会を「脳化社会」と呼ぶ。

今の日本人は、大抵3代遡れば農民である。自然と深く接した人種である。農作物を育てるのも子を育てるのも同じで、自然において身に付けていたことである。その日本人が急速に「脳化社会」で生きるように変わっている。変化が激しすぎて、うまく対応できる訳が無い。例えば明治維新で社会がガラッと変わったが対応できたなどと比較しても、社会の変わり方が異なる。今起こっている変化は、人間が別の人間の環境に置かれる変化ではなく、人間が人間のでない環境に置かれる変化である。

今は子供がランドセルに発信機を付けられ、その行動がコンピューターで監視されているという。子供の安全のため、とか「脳化社会」の論理でいくら理屈をつけても、養老さんの言うようにそれは人間の手抜きである。コンピューターを使った方が安全、などと、いくら理屈をつけても、それは変わらない。普段実際に危険に遭遇しない子供は、そんな監視を自然な感覚でありがたいと思うだろうか。子供が「脳化社会」の論理を理解して染まって初めてありがたいと思うのではないだろうか。これで、自然に育まれた従来の人間とは異なる、「脳化社会」が作る人間ができあがるのである。この人間は、自然で育った従来の日本人とは違う人間なのだ。凶悪犯罪を犯す子供、キレる子供、ニートなど、これまであまり日本人に無かった人間が出現しても、全く不思議ではないのだ。「脳化社会」はどんな人間を作り出すのか、未知なのだ。今の子供が、その貴重なサンプルとなっているのだ。

養老さんは、人を見る目の喪失が、人の個性を失わせているという。例えば、教師が、生徒1人1人の特徴を識別できなくなっている。それにより生徒は、自分に個性が無いと感じる。
今の日本の若者がよくする「自分探し」も「脳化社会」が作ったものと言えるかも知れない。自然の中で生きた日本人は、自然や社会に適応しようとし、行き着いた居場所の違いこそが個性だった。「~村の誰々」「~会社の誰々」といった呼称がなぜ今よりも個性を表し得たのか、理屈で説明できる人は稀だろう。だから、「脳化社会」の現代では、社会に適応しようとしてどこかに行き着いた自分に個性があると思えない。「自分」の喪失、個性の埋没と考えてしまうのではなかろうか。

養老さんが教壇で「お前らの目に映ってる俺の姿は、1人1人違うだろう。」と言うと、「先生、それは些細な違いです」「それは屁理屈です」などと回答が返って来るという。養老さんは「じゃその些細な違いのどこからお前らの違いが出るんだ」と言う。そう、人は似た環境で生きても、環境ほど似た人間にならない。日本で育てばみな日本語を喋るが、みなが同じ語彙を知っている訳ではない。些細な違いの積み重ねが、違う人間を作る。それは個性ではないのか。

「脳化社会」、今の日本をうまく説明する言葉だと思った。
大体、人間が頭の中で作った社会が人間にとって最善の社会であるはずが無い。人間の頭は、よく言われるほど複雑なことを考えるようにはできていない。何事も単純化して考える傾向がある。だから、個人主義、拝金主義なんてのがすぐに蔓延する。頭の中で考えても、例えばなぜ他人を思いやらないといけないのか、なぜ人を殺してはいけないのか、なぜ生命は尊いのか、なぜ生きないといけないのか等が、自然に身に付く以上に理解できることは稀であろう。それと同じで、頭の中で考えれば、個人主義も拝金主義もとても単純で合理的なので受け入れ易いし、受け入れれば複雑なことは考えたくなくなる、思考の着地点となり易い。人間の脳は、ある程度納得すれば疑わない、局所解に陥りやすい性質があるのである。そんな脳で考えることなど知れてると思った方が賢明だろう。

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